【取扱説明書特集】
― S2・S13・S1・S8の要求を取説に反映するコンプライアンスマトリクス ―
半導体製造装置やそのユニットを、国内外の半導体工場へ納入している(またはこれから納入を目指す)装置メーカーの担当者の方へ。
「CEマーキングに対応した取説があるから、半導体工場向けもこれで大丈夫」――そう考えて出荷準備を進めると、顧客の受入れ段階で思わぬ手戻りが発生することがあります。
半導体業界では、SEMI(国際半導体製造装置材料協会)が定めるEHS(環境・健康・安全)ガイドライン、なかでもSEMI S2への適合が、顧客の購買仕様で求められるのが一般的です。
SEMI S2は取説やラベル、人間工学について関連規格を参照しており、CE向けの取説だけでは確認されていない観点が含まれます。
本号では、半導体製造装置の取説に関わるSEMI規格の全体像を整理し、CE対応とSEMI対応を二重作業にしないための「コンプライアンスマトリクス」の考え方をお伝えします。
SEMI規格は法律ではありませんが、顧客の受入れ条件として実質的な必須要件になります
参照:SEMI S2-0724E(Purpose・Applicability)
CEマーキングはEUの法規制に基づく制度で、適合しなければEU市場に製品を出せません。一方、SEMI規格は業界団体が発行する自主的なガイドラインで、法的な強制力はありません。
それでも実務上は、半導体工場(エンドユーザー)が購買仕様の中でSEMI S2への適合を求め、資格を持つ第三者評価者による評価レポートを、装置受入れ前の確認資料とするケースが多くあります。つまりSEMI対応は「法律の要求」ではなく「顧客の要求」として効いてきます。
ここで押さえておきたいのは、両者が互いを代替しないことです。
- SEMI規格は欧州の整合規格ではないため、SEMI S2に適合しても機械指令(機械規則)への適合推定は得られません
- 逆に、CE対応の取説が整っていても、SEMI S2の評価で確認される観点(化学物質・除染・廃止措置、ラベルの様式など)が満たされているとは限りません
取説に関わるSEMI規格は「S2を起点に、S13・S1・S8へ広がる」構造です
参照:SEMI S2-0724E(Referenced Standards)/SEMI S13/SEMI S1/SEMI S8
SEMI S2は装置全体のEHS要求をまとめたガイドラインで、個別のテーマは関連規格を参照する構造になっています。取説担当者が押さえるべき規格の関係は、図1のとおりです。

取説に直接関わる主な規格と、2026年10月時点でSEMIの公式ストアに掲載されている現行版は次のとおりです。
| 規格 | 現行版(2026年10月確認) | 取説との関わり |
|---|---|---|
| SEMI S2 | S2-0724E | 装置全体の環境・健康・安全(EHS)の考慮事項。取説・ラベル・人間工学などはS13・S1・S8等を参照する |
| SEMI S13 | S13-0113(0819再承認) | 操作・保守・据付・安全の各マニュアルに載せるEHS情報の考え方。取説の内容面の中心 |
| SEMI S1 | S1-0826 | 安全ラベルの内容・書式・配置。対象には取説内の安全情報や装置の操作画面も含まれる |
| SEMI S8 | S8-0218 | 装置の設計・運転・保守・サービスにおける人間工学。保守作業の姿勢・重量物の情報に関わる |
ラベルや人間工学の規格に目が向きがちですが、取説の内容そのものを扱うのはSEMI S13です。S2の評価に備えて取説を点検する際は、S13を出発点にすると整理しやすくなります。
SEMI S13:取説の「中身」を点検する基準は、ここにあります
参照:SEMI S13-0113(Reapproved 0819)
SEMI S13は、装置の使用者に提供する文書――操作マニュアル、保守マニュアル、据付マニュアル、安全マニュアルなど――に含めるEHS情報の考え方を示すガイドラインです。
読者として想定されているのは、装置の操作・保守・サービス・据付に加え、除染(デコンタミネーション)や廃止措置(デコミッショニング)を行う担当者です。
この「除染」「廃止措置」が、一般産業機械の取説との大きな違いです。半導体製造装置では、プロセスガスや薬液、チャンバー内の反応副生成物などが保守・移設・撤去の各場面で危険源になります。実務上は、次のような情報が取説に不足していないかを確認することをおすすめします。
- 使用する化学物質・ガスの種類と、安全データシート(SDS)の参照方法
- 保守・部品交換の前に必要な除染・パージの手順と、その完了確認の方法
- 装置の移設・撤去(廃止措置)時の危険源と、作業前に必要な処置
- 排気・ユーティリティなど、据付時に施設側で満たすべき条件
なお、ライフサイクル全体を通じて情報を提供するという考え方は、EN ISO 20607とも共通しています(本コラム【取扱説明書特集】のVol.2・Vol.7参照)。CE向けに整備したライフサイクル別の記載を土台に、半導体特有の化学物質・除染の情報を厚くする、という進め方が効率的です。
SEMI S1:ラベルと取説・操作画面で、危険に関する情報が矛盾しないよう整合させます
参照:SEMI S1-0826(Safety Guideline for Equipment Safety Labels)
SEMI S1は安全ラベルのガイドラインですが、その対象はラベルにとどまりません。SEMIの公式ストアに掲載されている適用範囲には、装置のラベルに加えて、設置施設の安全標識、据付・操作・保守マニュアル内の安全情報、装置の操作画面(コンピュータ化されたユーザーインターフェース)が含まれています。
このため、同じ危険について「装置に貼るラベル」「取説の警告文」「操作画面のアラーム表示」で表現が食い違っていると、評価や顧客レビューで指摘の対象になり得ます。取説の安全ラベル一覧のページでは、実際に貼付するラベルと同じ図記号・シグナルワード・文言を使うことを徹底しましょう。
S1は2023年に全面改訂(S1-0923)され、その後も改訂が続いています。2026年2月のSEMI北米EHS委員会の報告では、指の挟まれ、閉じ込め(entrapment)、せん断などの図記号を追加する改訂項目が承認されています。図記号を使う取説では、顧客が指定する版の図記号表と照合することが欠かせません。
SEMI S8:保守作業の「姿勢・重量・届く範囲」を取説に落とし込みます
参照:SEMI S8-0218(Safety Guideline for Ergonomics Engineering)
SEMI S8は、装置の設計・運転・保守・サービスにおける人間工学のガイドラインです。本来は設計段階で適用するものですが、評価の結果として残った作業上の負担は、取説で使用者に伝える必要があります。
取説に反映する情報の例は次のとおりです。
- 交換部品・治具の質量と、吊り具・リフト補助具・複数人作業の要否
- 保守点検箇所へのアクセス方法と、作業姿勢上の注意
- 専用工具や作業台など、作業負担を下げるために装置側で用意している手段の使い方
ただし、取説の記載で人間工学上の設計対策を代替することはできません。ISO 12100の3ステップメソッド(本コラム【取扱説明書特集】Vol.4参照)と同じく、設計で対処し、残った負担を情報として伝えるという順序が前提です。
なおSEMIの発表(2025年4月)では、S8について大幅な改訂作業が進められていると報告されています。現時点(2026年10月)では、改訂状況を弊社で確認できていないため、評価時期が近い場合はSEMIの最新情報をご確認ください。
CEとSEMIの二重対応は「コンプライアンスマトリクス」で手戻りを防げます
参照:EN ISO 20607:2019/SEMI S2・S13・S1・S8(実務上の提案)
CEとSEMIの要求を別々のチェックリストで管理すると、同じ内容を二度確認したり、片方の修正がもう片方に反映されなかったりする手戻りが起きがちです。そこでおすすめしたいのが、要求事項を行、規格を列に並べた「コンプライアンスマトリクス」です。

マトリクスには、少なくとも次の列を設けると運用しやすくなります。
- 要求事項(例:残留リスクの警告、安全ラベルの一覧、除染手順)
- 根拠となる規格と版(例:EN ISO 20607:2019、SEMI S2-0724E)
- 取説の記載箇所(章・節番号)
- 確認日・確認者、評価レポートの該当項目
このマトリクスがあれば、第三者評価者に根拠と記載箇所をすぐに示せるうえ、設計変更や規格改訂の際にも、見直すべき行・列を素早く特定できます。本コラム【取扱説明書特集】Vol.7でご紹介した「リスクアセスメント台帳と取説をIDでつなぐ」方法と組み合わせると、警告内容の根拠までたどれる仕組みになります。
SEMI規格は改訂が続いています。版の管理を忘れずに
参照:SEMI Standards Watch(2024年9月・2025年4月)
SEMIの公表によると、S2は2024年7月に発行されたS2-0724で、高圧システム、装置の廃止措置、防火、可燃性物質、吊り上げ機器、安全ラベルなどの項目が改訂されました。次の正式版は2027年7月が見込まれており、インターロック関係を含む大幅な改訂作業が進められています。S8やリスクアセスメントのS10でも改訂作業が報告されています。
顧客の購買仕様では、適合を求めるSEMI規格の版が指定されることがあります。マトリクスの列見出しに規格の版を明記し、受注ごとに「どの版で評価を受けるか」を確認しておくと、評価直前の慌てた修正を避けられます。
まとめ
- SEMI規格は法律ではないが、半導体工場の購買仕様を通じて実質的な必須要件になる。CEとは互いに代替できない
- 取説に関わるSEMI規格はS2を起点に、S13(文書の内容)、S1(ラベル・安全表示)、S8(人間工学)へ広がる
- 半導体特有の化学物質・除染・廃止措置の情報は、CE向け取説で不足しやすい
- ラベル・取説・操作画面で、同じ危険に関する情報が矛盾しないよう整合する
- コンプライアンスマトリクスで要求事項・規格の版・記載箇所を一元管理すると、二重対応の手戻りを防げる