ヨーロッパ

Vol.7 「残留リスク」はこう書く

【取扱説明書特集】


― EN ISO 20607が要求する記載3要素と、現場で使える記述パターン ―

取扱説明書の警告文を実際に書いている・レビューしている担当者の方へ。

「危険ですので注意してください」。“この一文が取説にあればPL対策は万全”…では決してありません。警告文には、残留リスク「何が危険で、どうなり、どう避けるのか」の3要素が書かれていなければなりません。
残留リスクの記載はEN ISO 20607の中核要件であり、審査で最も具体的に指摘される領域です。同時に、記載の「型」さえ身につければ品質が安定しやすい領域でもあります。
本号では、残留リスク記載の3要素とシグナルワードの使い分けを、そのまま使える記述パターンとして解説します。あわせて、ライフサイクルフェーズ別の記載要件と、リスクアセスメント台帳との一元管理方法をご紹介します。

前提の再確認:残留リスクは「設計で消せなかったリスク」

参照:ISO 12100:2010 §6.1 / EN ISO 20607:2019 §5.5

ISO 12100の3ステップメソッドでは、『ステップ1:本質的安全設計』→『ステップ2:保護方策』の順にリスクを低減し、それでも残るリスクを『ステップ3:使用のための情報提供』で使用者に伝達します。
この構造から、記載すべき残留リスクの範囲は自動的に決まります。すなわち「リスクアセスメントの結果、ステップ1、2で除去しきれなかったと判定されたハザード」がすべて記載対象です。取説執筆者の主観で選ぶものではなく、台帳から機械的に導かれるべきものです。

「残留リスクとして何を書くべきか迷う」という状態は、多くの場合、記載の問題ではなくリスクアセスメント側の整理不足のサインです。

記載の3要素:「何が・どうなる・どう避ける」を必ず揃える

参照:EN ISO 20607:2019 §5.5 / IEC 82079-1:2019 §7.12
残留リスクの警告文は、次の3要素で構成します。

  1. 何が危険か:危険源の種類、場所、危険が生じる作業や条件。
  2. どうなるか:感電、巻き込まれ、やけどなどによって想定される傷害。
  3. どう避けるか:遮断、再起動防止、停止確認など、読者が実行する行動。

警告文に必要な3つの要素
回避方法は、「注意する」ではなく「何を、どの状態にし、何で確認するか」で書きます。
詳しい安全手順は該当箇所にまとめ、警告文から明確に参照できるようにすると、警告の要点と作業手順を両立できます。

シグナルワードは「リスク見積りの結果」から選ぶ

参照:IEC 82079-1:2019 / ISO 3864-2 / ANSI Z535.6-2023
シグナルワードの選定は、執筆者の感覚ではなく、リスクアセスメントの重篤度・発生確率の見積り結果から導きます。IEC 82079-1とANSI Z535.6の定義は実質的に整合しているため(本コラム「取扱説明書」Vol.6参照)、以下の対応で国内外の取説に共通運用できます。

リスク見積りの結果 シグナルワード 記載上のポイント
回避しなければ死亡・重傷に至る(切迫した危険) 危険(DANGER) 結果は断定形で書く(「〜に至ります」)。乱用しない
回避しなければ死亡・重傷に至るおそれ 警告(WARNING) 産業機械の残留リスクの主力。可能性表現(「〜おそれ」)
回避しなければ軽傷・中程度の傷害のおそれ 注意(CAUTION) 人身傷害がある場合のみ使用
人身傷害を伴わない(物損・製品保護・誤動作) 通知(NOTICE) 安全警告記号(△!)は付けない

あわせて、人身傷害に関わる警告には安全警告記号(三角形に感嘆符)を付し、ハザードの種類に応じてISO 7010の警告図記号(感電・挟まれ・高温面など)を併用します。図記号を使う場合は、取説内に記号一覧と意味の説明を設けることが必要です(本コラム「取扱説明書」Vol.2で指摘した通り、「見ればわかる」は規格上通用しません)。

輸送から廃棄まで 作業ごとに記載漏れを点検する

参照:EN ISO 20607:2019 §5.3 / 機械規則 EU 2023/1230 Annex III
残留リスクは運転中だけに存在するものではありません。EN ISO 20607では、機械のライフサイクル全体を通じた情報提供を求めています。以下は、フェーズごとに見られる典型的な残留リスクの例です。

フェーズ 残留リスクの例
輸送・搬入 重心偏り・吊り上げ時の転倒、開梱時の鋭利部
据付・接続 電源接続時の感電、仮固定状態での転倒
試運転 ガード未完成状態での可動部露出、初回通電時の予期しない起動
通常運転 稼働中の高温面・可動部への接近、材料の飛散
清掃・保全 残留電圧・残圧・蓄積エネルギー、単独作業時の再起動
廃棄・解体 冷媒・油・バッテリー等の有害物、重量物の解体手順

取扱説明書執筆後に、「各フェーズに1件も残留リスク記載がない場合、それは本当にリスクゼロなのか、それとも検討漏れなのか」を台帳に立ち返って確認することが重要です。

台帳と取説の一元管理:ハザードIDでつなぐ

参照:ISO 12100:2010 §7(文書化) / EN ISO 20607:2019 §5.5
残留リスク記載の品質を維持する最も効果的な方法は、リスクアセスメント台帳に「取説反映」の列を設け、ハザードIDで取説の章番号と相互参照することです(本コラム「取扱説明書」Vol.4のワークフローの具体化)。

ハザードID 残留リスクの例 取説の反映先
HZ-012 電気保全時の残留電圧による感電 安全章/電気保全手順の冒頭
HZ-018 清掃中の予期しない起動による巻き込まれ 安全章/ガードを開ける手順の直前
HZ-031 搬入時の重心の偏りによる転倒 搬入・据付/吊り上げ手順

台帳と取説をIDでつなぐ
この一元管理には3つの効用があります。

  • 網羅性の証明 ―― 残留リスクがすべて取説に反映されていることを、審査・監査で即座に示せる
  • 設計変更への追従 ―― 台帳のハザードが増減した際、取説のどこを直すべきかが機械的に特定できる
  • 配置の最適化 ―― 同じハザードを安全章(集約)と手順直前(埋め込み)のどちらに置くか、あるいは両方かを台帳上で管理できる
台帳と取説の突き合わせは、審査直前ではなく設計レビューのたびに行うのが理想です。

まとめ

  • 残留リスクの記載対象は、リスクアセスメント台帳から機械的に導く。執筆者の主観で選ばない
  • 警告文は「①何が危険か ②どうなるか ③どう避けるか」の3要素を必ず揃える。回避方法は検証可能な行動で書く
  • シグナルワードはリスク見積り結果から選定。人身傷害のないものはNOTICEに分離する
  • 輸送から廃棄まで、ライフサイクル6フェーズで記載漏れを点検する
  • ハザードIDによる台帳・取説の相互参照が、網羅性証明と改訂追従の基盤になる
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