取扱説明書

Vol.3 機械規則対応で「変わること・変わらないこと」|取説対応のポイント

【取扱説明書特集】


前回(Vol.2)では、取扱説明書でよく指摘される不備パターンを整理しました。
本稿ではその続きとして、機械指令から機械規則に変わることでの取説における変更点を具体的に解説します。

 

EU向けに機械・装置を輸出している、またはこれから輸出を検討している企業担当者の方へ。

2027年1月20日以降、EU市場への機械輸出に適用される規制が「機械指令 2006/42/EC」から「機械規則 EU 2023/1230」に切り替わります。
「指令」から「規則」への変更は名称の話だけではありません。技術文書・取扱説明書の担当者にとって、直接対応が必要な変更点が複数あります。
一方で、EN ISO 20607やIEC 82079-1といった取説の中核規格は引き続き重要な参照規格として位置づけられており、現在これらに準拠して整備した取説の基本構成は有効と考えられます。「全部作り直し」ではなく、「何が変わり、何が変わらないか」を正確に把握することが、対応コストを最小化する第一歩です。
本号では、機械規則への移行が取説実務に与える影響を整理し、今から着手すべきポイントをお伝えします。

まず押さえる:「指令」と「規則」の根本的な違い

参照:EU 2023/1230 前文 / 機械指令 2006/42/EC 前文
EU法には「指令(Directive)」と「規則(Regulation)」という2種類の立法形式があります。

    • 指令(Directive):加盟国が国内法に置き換えて適用 ・国ごとの解釈差が生じる可能性あり
    • 規則(Regulation):EU全域で直接適用 ・加盟国による解釈差が生じない

つまり機械規則は、加盟国間の解釈差をなくし、EU域内で統一した基準を直接適用するために設計された枠組みです。製造者にとっては「どの加盟国向けも同一の対応で通る」という利点がある一方、要件の水準が全加盟国で同時に引き上げられることを意味します。

移行タイムラインと適用開始日

参照:Regulation (EU) 2023/1230 第54条

    • 2023年6月29日    機械規則 EU 2023/1230 を官報(OJ L 165)
    • 2023年7月19日            機械規則 発効(官報掲載の20日後)
    • 2027年1月20日            機械規則の完全適用開始(機械指令は廃止、移行期間なし)
    • ※発効=制度として成立、適用開始=実務で義務化

2027年1月20日以降、EU市場に新たに上市する機械・装置には機械規則への適合が必要です。なお、機械指令と機械規則の「どちらか選択可」という移行期間は設けられていません。2027年1月19日までは機械指令のみ、1月20日からは機械規則のみが適用されます。

2025〜2026年に設計・認証を進めている製品は、2027年1月以降の上市が機械規則の適用対象になる可能性があります。今から対応を確認しておくことが重要です。

取説に影響する主な変更点(3つのポイント)

① 取説のデジタル提供が正式に認められる

参照:EU 2023/1230 第10条第8項 / Annex III ESHR
機械規則では、取扱説明書(Instructions for Use)をデジタル形式で提供することが条文上で明文化されました。これは機械指令にはなかった規定です。ただし条件があります。

    • 非専門家向け製品(消費者用機械)は、安全上重要な情報を紙で提供する義務が残る
    • 顧客から要求があれば、紙の取説を無償で提供しなければならない
    • デジタル提供の場合、取説へのアクセス手段(URLまたはQRコード等)を製品に付記する必要がある
    • ※URLやQRコードは「長期間アクセス可能」であることが前提となります

産業機械・装置を対象とする弊社読者にとっては、デジタル取説への移行を検討できる根拠が条文上整理された、という意味で重要な変更点です。

② DoC(適合宣言書)の電子化対応

参照:EU 2023/1230 第10条第8項 / Annex V
取説と同様に、EU適合宣言書(DoC)のデジタル提供も正式に認められます。取説との関係では、以下の対応が必要になります。

    • 電子的DoCへのアクセス手段(URLまたはQRコード)を取説内に明記する
    • DoCの参照方法を操作手順とは独立したセクションとして設ける
    • 紙・電子の併用パターンに応じた記載ルールを社内で統一する

③ ソフトウェア・デジタル要素の取り扱いが明確化

参照:EU 2023/1230 第2条(定義)/ Annex III ESHR
機械規則では、機械に組み込まれたソフトウェア(制御ソフトウェア・ファームウェアを含む)の安全要件が、機械指令と比べてより明確に規定されています。取説上で新たに求められる可能性がある記載項目は以下の通りです。

    • ソフトウェアバージョンと機能の対応関係
    • ファームウェアアップデートの手順と注意事項
    • ソフトウェア障害時のフェールセーフ動作の説明
    • サイバーセキュリティに関連する設定・運用上の注意(CRAとの重複領域)

従来は設計側の情報に留まりがちだった内容が、取説への記載事項として明示されつつあります。
特にPLC制御・産業用IoT接続を持つ装置は、ソフトウェア関連の取説記載を早期に整備する必要があります。

変わらないもの:取説の基本構成は継続して有効

参照:EN ISO 20607:2019 / IEC 82079-1:2019
機械指令から機械規則への移行に際して、欧州委員会は機械規則向けの整合規格リストを整備中です(2027年1月20日までの公開が目標とされています)。現時点ではEN ISO 20607が機械規則の整合規格として正式に確定したわけではありませんが、取説作成における重要な参照規格であることに変わりなく、現行の準拠内容は引き続き有効と考えられます。
以下の取説要素は機械規則下でも変わらず求められます。

    • 意図する使用および予見可能な誤使用の定義(EN ISO 20607 §5.4)
    • 残留リスクの記載方法と警告の構成(EN ISO 20607 §5.5)
    • ライフサイクル全体をカバーする記載構成(EN ISO 20607 §5.3)
    • 対象読者の定義と情報の粒度設計(EN ISO 20607 §5.6 / IEC 82079-1 §6.4)

機械規則への対応は「取説の全面改訂」を意味しません。EN ISO 20607準拠の取説を既に整備している場合、追加・修正が必要なのは上記①〜③の変更点に対応する部分に限られます。

今から着手すべき3つのアクション

2027年1月20日の適用開始まで、準備期間は限られています。以下の3点を優先的に確認してください。

アクション1 適用対象製品の確認
2027年1月20日以降にEU市場へ上市する予定の製品を特定し、機械規則の適用対象かどうかを確認する。

アクション2 取説のギャップ確認
現行取説と機械規則の変更点(デジタル取説・DoC電子化・ソフトウェア記載・ESHR更新)を照合し、追記・修正が必要な箇所を洗い出す。

アクション3 社内体制の確認
取説の改訂を担当する部門と、認証・法務・輸出担当の間で機械規則への移行スケジュールを共有する。取説の修正は認証機関との協議と並行して進める必要がある。

まとめ

    • 機械規則 EU 2023/1230 は2023年7月19日に発効、2027年1月20日から完全適用
    • 機械指令との選択期間(移行期間)はなく、1月20日以降は機械規則のみが適用
    • 取説への主な影響:デジタル取説の明文化、DoC電子化対応、ソフトウェア記載の追加
    • EN ISO 20607・IEC 82079-1への準拠内容は引き続き有効と考えられる
    • 「全面作り直し」ではなく、変更点に絞った追記・修正で対応可能

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