コラム

【Vol.2】 取説不備の典型5パターン|vol.1から一歩進んだ実務対策

前回(Vol.1)では、取扱説明書が審査で指摘される理由を整理しました。
本稿ではその続きとして、実際に多い“不備パターン”を具体的に解説します。

CE認証の取得を目指している、または取得を終えたばかりの企業担当者の方へ。
「設計も安全対策も整えた。なのに審査で取説の不備を指摘された」――そうした声は、CE対応の現場で繰り返し聞かれます。
機械指令/機械規則のAnnex I §1.7.4は、取扱説明書の内容要件を独立した章として定めており、審査機関はそこを明確にチェックします。取説の不備は、設計の問題ではなく「文書の問題」として差し戻されます。
今回は、審査・レビュー現場で繰り返し浮上する5つの不備パターンを、根拠となる規格条項とともに整理します。CE対応の手戻りを防ぐために、ぜひご確認ください。


不備① 「使っていい人・場面」が曖昧なまま

機械指令が取説に求める最初の要件は、機械の「意図する使用と、製造者が合理的に予見できる誤使用」の明示です。
「用途外使用は禁止」の一文で済ませている取説は少なくありませんが、規格が求める水準はより具体的です。
現場で実際に起こりうる以下のようなシナリオを列挙することが求められます。

  • 資格を持たない作業者による操作
  • 規定外の材料・ワークの投入
  • 改造や安全装置の無効化

この記載は、製品事故発生時のPL(製造物責任)防衛線にもなります。何を禁止したかを文書で示せるかどうかが、法的争点になり得ます。輸出担当の方は特にご留意ください。


不備② リスクアセスメントの結果が取説に届いていない

ISO 12100が定める3ステップメソッドでは、設計で除去・低減しきれなかった残留リスクを、第3ステップとして「使用者への情報提供」で補うことになっています。取説の警告内容は、リスクアセスメントの結果と論理的につながっていなければなりません。また、警告表示はIEC 82079-1の表現ルール、記号はISO 7010に従う必要があります。
実務では次のような不備が頻発します。

  • リスクアセスメント台帳と取説が別々に作成され、内容が一致していない
  • 設計段階で「高リスク」と評価されたハザードが取説に反映されていない
  • 警告レベルの分け方がIEC 82079-1の定義(DANGER/WARNING/CAUTION)と整合していない
  • ISO 7010に準拠していない独自記号の使用、または記号の意味説明が未記載

記号は「見ればわかる」ではなく、取説内で意味を説明することが規格上の要件です。


不備③ 「誰が読む取説か」が定義されていない

IEC 82079-1は、取説の作成にあたって「対象読者」の資格・知識・訓練レベルを明確にすることを求めています。これは形式要件ではなく、情報の粒度・表現レベルを決める設計の前提です。
よく見られる不備は以下の通りです。

  • オペレーター向けと保全担当向けの情報が混在し、どの記述が誰に向けたものか判別できない
  • 「有資格者が操作すること」と書かれているが、その資格の種類・水準が未定義

誰がどの操作・保全を担うかという作業分担(運転・保全・点検)の定義が曖昧なままでは、取説側でも明確に書けません。取説に書けない理由が設計の曖昧さにある、というケースも少なくありません。


不備④ ライフサイクルの「端」が抜けている

機械指令が求める取説は、輸送・設置から廃棄・解体まで、製品のライフサイクル全体をカバーするものです。多くの取説は「通常操作」と「トラブルシューティング」に集中し、導入フェーズと廃棄フェーズが薄く、記載が不足しがちです。不備として指摘されやすい項目は以下の通りです。

  • 輸送時の制限・条件
  • 設置場所の環境要件(床荷重・換気・電源仕様)
  • 試運転手順
  • 廃棄時の有害物質処理や解体上の安全注意

輸出・貿易担当の方にとっては、輸送・梱包条件の記載不備が通関や保険の実務にも影響することがあります。取説は「操作説明」だけではなく「製品に関するすべての情報文書」という認識が必要です。


不備⑤ 翻訳版に「原文」の痕跡がない

EU市場への輸出では、販売先国の公用語による取説提供が義務です。ここで見落とされがちなのが、翻訳版の言語表記要件です。
機械指令は、オリジナルの言語で作成された取説(original instructions)と翻訳版(translation of the original instructions)を明確に区別します。翻訳版には以下を明記しなければなりません。

  • 原文の言語
  • 「原文に基づく翻訳である」旨

※原文(original instructions)は通常、製造者が責任を持つ言語版を指します。

この表記がない取説は、形式要件の不備として指摘されます。また、機械翻訳による技術用語の不統一や安全表現のニュアンスずれも実務上の課題です。翻訳は「言語の変換」ではなく「安全情報の移植」として扱う必要があります。


まとめ|5つの不備に共通する「根本原因」

5つの不備パターンに共通しているのは、いずれも「取説を最後に書く」という慣行から生まれているという点です。

  • 意図する使用 → リスクアセスメントと連動して定義される
  • 残留リスクの警告 → 設計文書から論理的に引き継がれる
  • 対象読者の定義 → 製品企画段階で決まっている

取説の内容は、設計プロセスの各段階で積み上げられるものです。後から収集しようとすると、情報は分散し、担当者の記憶に依存する状態になります。

「自社の取説が、どのような不備に当てはまるか確認したい」という方は、お気軽にご相談ください。審査直前の手戻りを防ぐために、専門家の視点で現状を確認します。

【関連規格】
EN ISO 20607:2019 / ISO 12100:2010 / IEC 82079-1:2019 / 機械指令 Annex I

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